密教の世界
密教とは何か?
密教は大乗仏教の中から生まれた仏教で、インドで広まり、中国を経て日本に伝えられました。大乗仏教がいつどのようにして発生したのか分からないように、密教もいつどのように発生したのか正確なことは分かりません。インド人には歴史を正確に記録するという習慣がないことと、十三世紀にインドでは仏教が滅び、多くの経典や記録が伝えられなくなったことにより、初期の仏教の様子は、断片的な情報(文献)により、推察するしかないのが現状です。
日本では、密教を歴史的に三分類して考えるのが一般的です。
一. 初期密教 呪文や呪術を使って現世利益を求めるような動きが見られます
二. 中期密教 日本に伝わった密教です。新たに起こった密教的な運動を、仏教の思想で統一し、体系化した時代です。
『大日経』と『金剛頂経』というお経を中心にまとめられました。(7C~8C前半頃)
三. 後期密教 チベットに伝わった密教です。成就法(瞑想法)が進化し、生理的ヨーガも積極的に取り入れられます。(8C後半以降)
密教は、大乗仏教と全く別物と考えるよりは、大乗仏教の教義を基にして、それに様々な修行法を加えて体系化したものと考えた方が、理解しやすいように思います。
密教では、それまでの仏教に比べて、今生きているこの世界(現世)での幸せを強く意識します。また、マントラ(真言:呪)を重視します。とはいえ、初期大乗仏教経典である般若心経の中にマントラ(真言)があるように、インド人にとってマントラ(真言)を使うことは、極めて一般的なことであり、密教固有のものとは言えないでしょう。
真言密教と真言宗
弘法大師空海が唐(中国)に渡り、805年に恵果和尚から密教を伝えられました。
816年には高野山に道場を開き、823年には東寺を賜って真言宗を確立しました。
中期密教である『大日経』と『金剛頂経』を基本経典とし、これを「両部の大経」などといいます。
空海は「今生きているこの世において幸せになる」という願いを実現する「即身成仏」の思想を掲げ、当時の国家仏教としての役割とともに、広く民衆の中に仏法を広めていったことでも有名です。
また空海は、水害に悩む人を助けるために、誰も成功しなかった満濃池という灌漑用溜池を作るなど、社会救済活動を行っています。また、身分に関わらず無料で学問を学べる「綜芸種智院」という私学を、世界で始めて設立しました。
これらの社会的な活動は、現世を重視する密教の性質をよく現しているといえるでしょう。
現在の真言宗は、弘法大師空海の教えを受け継ぎながら、時代に応じて様々な変化をしてきています。
真言宗には多くの宗派がありますが、大きく分けると、新義と古義になります。
新義は、平安後期に現れた覚鑁(かくばん)上人を中興の祖とする派で、豊山派や智山派などがあります。奈良の長谷寺、京都の智積院、成田山新勝寺、川崎大師などのお寺が有名です。
古義は、高野山派を始め多くの宗派があります。高野山金剛峯寺や京都の東寺、四国の善通寺など多くの本山があります。
現在の真言宗では、大師信仰の広がりとともに、「南無大師遍照金剛」のご宝号を唱えることが基本となっています。
四国八十八箇所の遍路では、弘法大師がいつも一緒におられるという「同行二人」の考え方を基本とし、「南無大師遍照金剛」のご宝号をお唱えします。「遍照金剛」とは、空海が恵果和尚から頂いた灌頂名であり、また真言密教の本尊である大日如来のことでもあります。
大師信仰は、弘法大師は今も生きておられるという入定信仰とともに、十世紀ころには既に始まっていると思われます。それは、天皇・貴族から一般大衆にまで、さらには対立する奈良仏教にまで幅広く慕われた空海の人徳の表れかもしれません。 【 橋本 文隆 】
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