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第2章歴史編 ブリーフセラピー(短期療法)の誕生

2.ブリーフセラピー(短期療法)の誕生

 ブリーフセラピーは、コミュニケーション論をベースとした心理療法として、MRI(Mental Research Institute) を中心に開発されてきました。心理療法とは、心理的問題や精神的問題の解決、心的精神的健康の増進を目的とする理論や技法の体系を意味します。ブリーフセラピーは、コミュニケーション心理学の具体的実践として、多くの実績をあげてきました。

 ブリーフセラピーの源流は、天才療法家と言われたミルトン・エリクソン(1901~1980)にさかのぼります。ミルトン・エリクソンは近代催眠の祖とも言われ、催眠を利用した独特な療法を実施し、他で改善しなかった多くのクライアントの問題を解決しました。しかしミルトン・エリクソンは自身の療法を理論化することを嫌い、「クライアントの数だけ療法はある」という姿勢を貫きました。
 哲学的な体系、理論的な構築よりも、現場におけるコミュニケーションを重視するあり方は、学者ではない実践家としての姿なのでしょう。ミルトン・エリクソンの弟子たちは、彼の療法を研究し、その一部を受け継ぎ、また独自に発展させながら理論化し、ブリーフセラピーと呼ばれるいくつかの流派を創りだしていきました。

 ブリーフセラピーのもうひとつの源流は、グレゴリー・ベイトソン(1904~1980)にあります。ベイトソンは、バリ島の研究 など文化人類学者であると同時に、コミュニケーション論の分野で大きな功績を残しています。ベイトソンは家族療法グループと連携し、コミュニケーション論やシステム論を使ったセラピーの研究を行なっています。ベイトソンはミルトン・エリクソンとも親交が深く、この家族療法はやがてブリーフセラピー誕生の基盤となっていきます。

 ブリーフセラピーを本格的に研究し始めたのは、家族療法の研究を中心に活動していたMRIです。今までの心理療法に比べて短期間で改善がみられるという謳い文句で、MRIはブリーフセラピー(家族療法)を推進していきます。 1
MRIではブリーフセラピー(家族療法)を中心に研究が続けられましたが、その中から新たな療法も誕生しています。

 1978年にインスー・キム・バーグとド・シェイザーが設立したBFTC(Brief Family Therapy Center)では、SFA(Solution Focused Approach)という新たな心理療法が開発されました。解決志向アプローチとも言われるこの療法は、MRI的ブリーフセラピーに代わって大きく勢力を伸ばしています。 2
家族療法の影響を受けながら発展した心理療法として、ナラティブ・セラピーも多大な影響を各方面に与えています。ナラティブとは物語のことです。問題を抱えた物語(ドミナントストーリー)を書き換え、新たな物語(オルタナティヴ・ストーリー)を構築します。家族療法のひとつとも考えられますが、社会構成主義に基づくアプローチを採用するなど、独自の世界観と手法を構築しています。 3

 NLP(Neuro―Linguistic Programming:神経言語プログラミング)は、ジョン・グリンダーとリチャード・バンドラーを中心に開発された心理療法です。催眠療法家のミルトン・エリクソン、家族療法家のバージニア・サティア、ゲシュタルト療法家のフレデリック・パールズをモデリングして構築されたと言われています。さまざまな療法を参考にして開発されたNLPには多くの療法が混在していますが、催眠を始めとしてエリクソンの影響は大きく見られます。現在NLPは、セラピーだけでなく、自己啓発、コーチング、プレゼンテーションなど多くの分野で活用されています。 4

 このようにブリーフセラピーは、家族療法を中心にMRI、SFA、ナラティブ、NLPなどさまざまな流派が並立する状態となっています。ブリーフセラピーは、さまざまな思想や手法が競い合いながら発展している、ダイナミック(動的)な状態にあるといえるでしょう。 5

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1  ブリーフセラピー各派からは、短期間で成功した事例が多数出されていますが、他の療法よりも効果的であるという決定的なデータがあるわけではありません。ブリーフセラピー派のスコット・ミラーは、多くの心理療法は実際には短期間で終了しており、ブリーフセラピーだけが格別に短期間で終了するわけではないと述べています。

2  BFTC:インスー・キム・バーグとド・シェイザーがMRIを離れて設立したセンター。インスーとド・シェイザーは夫婦。ウィスコンシン州ミルウォーキーにあり、ミルウォーキー派とも呼ばれます。SFA(Solution Focused Approach)が開発されたのは1982年。

3  ナラティブセラピーは、特定の創始者による固有の手法ではなく、ナラティブの考えに基づく多くの手法の総称になります。マイケル・ホワイト、デビット・エプストン、ハーレン・アンダーソン、ハロルド・グーリシャン、トム・アンデルセンなどの活動が有名です。

4  NLPはMRIで開発されたものではありませんが、エリクソンとベイトソンの流れを組むNLPは、ブリーフセラピーと同様のコミュニケーション論を理論的背景として持っており、ここではブリーフセラピーのひとつとして扱っています。

5  戦略派や構造派などの家族療法や、催眠を利用するオハンロンの可能性療法など、ここに挙げたもの以外にもブリーフセラピーと呼ばれるものは多数存在します。

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