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第3章思想編 コミュニケーション心理学の思想 2

コラム 『般若心経』と論理階型論 

 宮坂宥洪氏は、ラッセルの論理階型論的な般若心経論を展開しています。
宮坂宥洪氏の『真釈般若心経』では、4層のフロア構造をモデルとして『般若心経』を読み解いています。

 『般若心経』では、眼耳鼻舌身意も無く、十二縁起も無いと説いています。十二縁起はブッダが説いた中心的な法ですが、『般若心経』ではブッダが説いた法は無いと言っているのです。
 この一見、ブッダを否定するかのような『般若心経』を、宮坂宥洪氏は階層モデルを使って説明します。
 宮坂宥洪氏は、一階を幼児レベル、二階を世間レベル、三階を小乗仏教レベル、四階を大乗仏教レベルと設定したうえで、無我を説く三階レベルを超えたところに、空を説く四階を置きます。一階から四階への階梯は、弁証法的な発展形態であり、空海の『十住心論』を思わせるものでもあります。(1)

 宮坂宥洪氏はこのなかで、十二縁起などの初期仏教の教えを「無」とする『般若心経』は、フロアが異なる故の言説であると言います。三階のフロア(小乗仏教レベル)では正しい縁起の法も、四階のフロア(大乗仏教レベル)から語れば「諸法は空」となるのです。つまり『般若心経』は無我を語る小乗仏教と、次元が異なるところから語りかけていることになります。

 階層が異なることにより言説が異なるという宮坂宥洪氏の階層モデルは、ラッセルの論理階型論に相当します。ラッセルは、階型(コンテキストのレベル)が異なることにより、同じ言葉が異なる意味で使われることを示しました。言葉の意味を創造するものはコンテキストですから、階型(コンテキストのレベル)が異なることは、必然的に異なる言説となるのです。

※(1)
 幼児レベル、世間レベル、小乗仏教レベル、大乗仏教レベルという階層構造は、ユングの自己実現(個性化の過程)やケン・ウィルパーの意識のスペクトラム論とも相似している。
 自我が確立する前の段階(幼児レベル/プレパーソナル)から自我の確立(世間レベル/パーソナル)へと進み、無我・空(小乗・大乗仏教レベル/トランスパーソナル)へと進化するとも考えられる。

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