第3章思想編 コミュニケーション心理学の思想 4
3.人間コミュニケーションの公理
ベイトソンの理論を引き継いだMRIグループでは、語用論からみた人間コミュニケーションの公理として、5つの試案を発表しています。 (1)
それを基にして『コミュニケーションの臨床心理学』(若島孔文著)では、公理を次のように修正しています。
●第一公理:人はコミュニケーションしないわけにはいかない。
下位公理:すべての行動はコミュニケーションである。
●第二公理:全てのコミュニケーションは内容と関係の側面を持ち、後者は前者をクラス化/枠づける、メタコミュニケーショナルな機能を持つ。
●第三公理:関係がどういう性質を持つかはコミュニケーションに参加する人のコミュニケーションの流れの区切り方/パンクチュエーションを条件とする。
●第四公理:人類はデジタルにもアナログにもコミュニケートする。デジタル言語は複雑で高度の文法構造を有するが、関係レベルでの意味論を欠く。一方、アナログ言語は意味論は有するが、関係を明確に規定する文法を欠く。
●第五公理:全てのコミュニケーションは相補性に基づくか相称性に基づくかで、相補的なコミュニケーションを営むか、相称的なコミュニケーションを営むかの、どちらかになる。
第一公理は、会話することだけがコミュニケーションではなく、無言でも無言のメッセージが伝わるように、存在そのものがコミュニケーションとなることを意味しています。例えば、会話の途中で相手が急に黙って何も言わなくなったとしたら、会話が無いことによって、何らかの想いがこちらに起こるでしょう。これは、会話を止めることによって、あるメッセージが伝わってくることを意味します。つまり、黙っていても話していても、もし何らかの存在を感じたとするならば、そこにはメッセージが存在するということであり、コミュニケーションが存在すると言えるのです。
またこの公理では、関係がメタコミュニケーションとして、重要な役割を果たしていることを示しています。関係はコミュニケーションの流れの区切り方(パンクチュエーション)に関わってきます。
例えば、
夫の帰宅がいつも遅い。
妻が夫に、頻繁に文句を言う。
という夫婦を考えてみましょう。
夫は「妻がガミガミ言うので、家に帰りたくないので、帰宅が遅くなる」と考えています。
妻は「夫の帰りが遅いので、言いたくはないけど、つい文句を言ってしまう」と考えています。
<夫の帰宅が遅い。>
<妻が文句を言う。>
この二つの事実は変わらなくても、そのコミュニケーションの区切り方によって、夫と妻は全く異なる見解を持つこととなります。
このようなケースの場合、もし夫が早く帰るようにすると、妻の文句が減ると同時に、妻の言い分が正しかったことを認めることとなります。
妻が文句を止めると、夫が早く帰るようになると同時に、夫の言い分が正しかったと認めることとなります。
したがって、夫婦がともに自分の正当性を主張している場合、両者ともこのような行動を取ろうとはせず、解決が長引くこととなるのです。
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(1)『人間コミュニケーションの語用論』原書は1967年刊。
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