第3章思想編 コミュニケーション心理学の思想 3
2.ダブルバインド
このようにコミュニケーションをコンテキストから捉えるところから、ベイトソンは「ダブルバインド」という現象を発見しました。「ダブルバインド」とは、ひとつのメッセージのなかに、相矛盾するコンテキストが同時に存在するようなメッセージのことです。
よくある例は、言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションが矛盾しているメッセージです。
例えば、次のようなダブルバインドは日常的に発生しています。
● ウソをついている子供に対して、「本当のことを言わないと怒るわよ」と、怒りを顕にして怒るお母さん。
● 「君の好きなようにしていいんだよ」と言いながら、「俺の言うことを聞かなかったら許さんぞ」と無言の圧力をかける上司。
● 「絶対怒らないから本当のことを言って」と言っているが、本当のことを言ったら絶対怒ると思わせる彼女。
ベイトソンは当初「ダブルバインド」を精神分裂症(統合失調症)の原因として研究していましたが、現在では「ダブルバインド」は、日常のコミュニケーションにも頻繁に現れる、一般的なコミュニケーションパターンとして研究されています。
ベイトソンの理論を引き継いだMRIグループでは、「ダブルバインド」が成立する要件として、次のものをあげています。
(1) 2人あるいはそれ以上の人間が、1人、数人あるいは全員にとって、身体的かつ心理的、あるいはそのどちらかの高度な生存価値をともなう強い関係にある。
(2) そのような文脈において、非常に精巧に組み立てられていて、(a)何かを主張し、(b)それ自身の主張に関して何かを主張し、(c)二つの主張が互いに相いれないようなメッセージが与えられる。
(3) メッセージを受け取る者は、メッセージについてメタコミュニケーション(メッセージ)したり、引き下がったりしてみても、メッセージによって作られる枠の外に飛び出すことはできない。従って、メッセージが論理的に意味をなさないものであっても、語用論的には真実。それに反応しないわけにはいかない。
相手のメッセージが矛盾していることが分かったとしても、そこから逃れる術がなく、その矛盾したメッセージを受けざるを得ないとき、ダブルバインドの状況におちいります。
ダブルバインドは、統合失調症などの問題を引き起こす一方、クライアントが抱える問題を解決することに使うことも可能です。ミルトン・エリクソンはベイトソンに学ぶことなく、自身の療法のなかでダブルバインドを使用して、クライアントの問題を解決していました。ベイトソンはそれを「治療的ダブルバインド」と呼んでいます。
問題を引き起こすダブルバインドでは、矛盾するメッセージのどちらを選択しても、必ず失敗し、良い結果を得ることができませんが、治療的ダブルバインドでは、矛盾するメッセージのどちらを選択しても、必ず成功するようにメッセージを送ります。
例えば、失敗を恐れているクライアントに「必ず(意識的に)失敗しろ」と指示すれば、クライアントは必ず成功します。もしクライアントが失敗したのなら、それは指示に従ったのだから問題はなく、もし失敗しなかったのなら、それは本来クライアントが望むことなのですから問題はありません。
このようにダブルバインド理論は、心理的問題の発生と解決の両面で、ブリーフセラピーの重要な理論となっていきます。
仏教の世界はダブルバインドを多用しており、その問題と可能性については後述します。
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