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第3章思想編 空海とコミュニケーション心理学の思想2

2.空海とコミュニケーション論
 次に声字は実相であるとする空海の説と、コミュニケーション論の関係について考えてみます。コミュニケーション論は、ケネス・ガーゲンの社会構成主義思想を中心にして、両者の共通するところと異なるところを検討します。

声字実相とコミュニケーション論
 まず、空海の声字実相思想と社会構成主義の共通性を検討してみます。
 ケネス・ガーゲンは、社会構成主義の4つのテーゼの1番目を「私たちが世界や自己を理解するために用いる言葉は、「事実」によって規定されない。」 としています。私たちが普段使用している言葉は、世界の真実そのものを表す手段とは成りえません。これは洋の東西を問わず広く受け入れられている考えだと思われます。
 その上で2番目のテーゼ「記述や説明、そしてあらゆる表現の形式は、人々の関係から意味を与えられる。」 とあります。私たちの認識はアナログ・デジタルを含めた「言語」によって構成されており、その「言語」は関係のなかで存在し、意味を創造していくものです。つまり、客観的世界を言語によって認識していくのではなく、言語(コミュニケーション)の存在が(私たちの認識できる)世界を創造していくのです。したがって、存在はコミュニケーションと共にあると考えることができます。

 『声字実相義』では、「声」が物の「名(意味)」を生み出し、それを「字」によって明らかにするとあります。「声」は、地・水・火・風という世界の構成要素が触れ合うことによって生じる響きです。即ち「声」は単独で存在するものではなく、互いに触れ合うという関係の中から生じてくるものであり、物の名(意味)はその関係をベースにして誕生するものと考えられます。
 つまり、互いに関係することがなければ、響きもなく、声もなく、物の名(意味)もなく、字もなく、そして実相(真実の様相)もないこととなります。

さらに『声字実相義』では、「内外の依正(えしょう)に具す」 「大小の身土互いに内外と為り、互いに依正と為る」と説いています。
 依正とは、依報(環境世界)と正報(生きとし生けるもの)のことです。内的存在である衆生と外的存在である環境世界が、それぞれ独立して存在するのではなく、互いによりどころとなり、関係のなかで存在しているというのです。

 ベイトソンは、「生物と環境」とのコミュニケーションのなかに、精神というシステムを見ています。「生物+環境」が進化の単位であり、生存の単位であり、そして精神の単位でもあると主張します。衆生と環境の相互関係を見る空海の眼と、ベイトソンの「生物+環境」にある精神システムは、共に世界に存在する「関係」を洞察していると考えられます。
 「関係」という観点から見たときに、空海の思想と社会構成主義やコミュニケーション論の間には、共通する点を多数見ることができます。存在を関係から見る、つまり「存在とは関係である」という点において両者は一致すると考えられます。

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