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第4章技法編 密教の技法 6

第4章 技法編
1.密教の技法 - 心理療法の観点から
  1.三密加持
    3.遍路・参拝 同行二人


 四国遍路を始めとする寺院への参拝は、人びとへの癒しや力づけの力を持っていると思われます。その意味では、心理療法に類似した効果が遍路や参拝にあると考えられます。

 四国八十八ヶ所の遍路には、毎年数十万人の人が訪れると言われ、その中でさまざまなドラマが展開されています。自分自身の問題の解決や他の人々の回復などを祈願して、遍路や参拝が行われています。そこには、より良い人生に向けた人々の願いがあり、心理的な支援(救い)が存在します。

 その効果を理論的に説明することは難しいところがありますが、「祈りや信心の力」、「寺院や自然などの場が持つ力」が大きく影響していると思われます。


 同行二人は、現在の真言宗においては極めて重要なキーワードとなっており、特に四国遍路においては、信仰の中心的概念になっていると考えられます。
 これは、お大師さま(空海)と共に歩き、常にお大師さま(空海)が同行してくださる、という信仰です。もちろんこれは空海の存命中に存在したものではなく、空海が今も生きているという後世の大師信仰とともに生まれてきた思想です。
 
 しかし、苦しい四国遍路の修行のなかで、お大師さま(空海)の力を感じたり、奇跡的な出来事に出会ったり、遍路完遂の力づけを得たという話は数多く存在します。人々への癒しや精神的な力づけという視点で見れば、同行二人は、実践効果の高い思想であり手法であると考えることができます。

 同行二人という信仰を、心理療法という視点から考察してみたいと思います。
セラピーやコーチングなどのコミュニケーションにおいては、セラピストやカウンセラーの“あり方”が重要だと言われています。それは、態度(attitude)や“Be”、”Being”などと表現されます。

 そして同行二人という信仰は、” Be with(共にいる)”というあり方に近いものがあると考えられます。” Be with”は、”God Be with You(神ともにいまして)”のように宗教的文脈でも使われますが、心理療法の場面では、「クライアントと共にいる」という意味で使われます。それは、物理的と精神的の両方の意味を持ちます。
 ”Be with”には、クライアントに安心を与え、癒しの効果があり、クライアント自らの変容を支援する効果があると思われます。人はひとりでは生きていけません。孤独を好む人も、どこかで他の人とのつながりを求めています。”Be with”は、そのような人々に力を与えます。

 
この”Be with”と「同行二人」は、構造的には同じものだと考えられます。”Be with”は目の前の生身の人間であり、「同行二人」は信仰上の仏(お大師さま)という違いはあります。しかし、「自分はこの世界にひとりぼっちではない」ということを気づかせ、社会との関係のなかにおいて自らを変容させていくという面においては、同様の働きがあると考えられます。
 「同行二人」は、人を力づける素晴らしい心理療法と言っても、決して過言ではないと私は考えます。

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