第4章技法編 密教の技法 7
第4章 技法編
1.密教の技法 - 心理療法の観点から
1.三密加持
4.加持祈祷
加持と祈祷は本来別々の用語ですが、現在は合わせて使われることが多いようです。
息災・増益・敬愛・降伏という四種の護摩法 が代表的なものです。
加持祈祷などの祈願によって病気や災難などから逃れようとする行為は、古くから存在しますが、一般的には、宗教・信仰・迷信の世界として扱われるため、科学の土俵で論議されることは少ないようです。
しかし真言密教では、加持祈祷によって病気の快癒や生きる力を与えてきた事例が数多く報告されています。医学的な検証にも積極的に応じている僧侶もいますが、まだ明確な科学的論理は構築されていないと思われます。
加持祈祷には呪術的な側面もありますが、原理的に見れば三密加持の実践であり、それ以外の何ものでもありません。したがって加持祈祷は密教行者にとっては当然行うべき行法となりますが、先にも述べましたように、一般の在家者には阿字観以外の行法は伝えられません。そこでここでは、一般在家者が行者に加持祈祷を願い出るケースを検討します。
心理療法の観点から加持祈祷を論じることは難しいものがありますが、ここでは、ブリーフセラピストでもあるスコット・ミラーの説から加持祈祷を考察することとします。
スコット・ミラーは、『心理療法・その基礎なるもの』のなかでランバートの研究成果を引用し、心理療法における4つの共通治療要因と、治療への影響度を示しています。
その研究によれば、4つの治療要因と治療への影響度は次のようになります。
①治療外要因 40%
②治療関係要因 30%
③モデルや技法要因 15%
④期待、希望、プラシーボ要因 15%
この研究によれば、心理療法の各流派が持つ技法そのものは、治療に対して15%の役割しか果たしていません。最も大きな影響を与えているのは治療外で起こっているさまざまな出来事です。それは偶然の出来事や、家族や友人との会話、音楽やスポーツなど多様なものがあります。クライアントを取り巻く環境は、治療に多大な影響を与えているのです。
治療関係要因は、クライアントとセラピストとの関係自体が及ぼす影響であり、30%の影響が認められています。つまり、クライアントとセラピストの関係が適切であることは、心理療法の技法よりも影響力が大きいということになります。
期待やプラシーボによる暗示も、15%の治療効果を持っていることが示されています。
この研究データから加持祈祷を考えた場合、心理療法として大きな効果を発揮する可能性を見ることができます。
治療効果を発揮する大きな治療要因として、治療関係要因が30%の影響度を持っています。心理療法においては、治療関係要因は、セラピストとクライアントの関係となりますが、加持祈祷では、行者と受者の関係だけでなく、仏との関係が含まれてきます。仏との関係が構築されることは、「同行二人」が”Be with”として効果を発揮することと、構造的には同じであると考えられます。
また密教の行は、さまざまな法具や炎などを使い、独特の場を構築します。この場は、仏との関係を構築する重要な場であると同時に、その場自体が意識変容をもたらす装置として機能すると考えられます。寺院など加持祈祷の場に出向くことは、その非日常的な特殊な場が、治療外要因として効果を発揮することも考えられます。これに加えて期待やプラシーボ効果が加われば、かなり効果的な心理療法になる可能性があるのではないでしょうか。
以上の考察から、加持祈祷は心理療法的に次のように解釈することが可能であると考えます。
「加持祈祷は、行者との関係だけでなく、仏との特別な治療関係を構築する。加持祈祷の非日常的な場は、治療外要因として効果を発揮する可能性があり、また密教や行に対する信仰は、期待やプラシーボ要因として働くことが考えられる。以上の要因が総合的に機能する状況を想定すれば、加持祈祷には高い治療効果があると考えられる。」
以上は仮説にすぎませんが、そのように考えると加持祈祷が心理療法として効果を発揮してきた理由の一因が理解できるのではないでしょうか。
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