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2010年11月

第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法 11

第4章 技法編
2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  3.ソリューショントーク(解決に関する会話)

<コラム>十二縁起

人生の苦の根源を追究し,その根源を断つことによって苦悩を滅するように
12の条件を系列化したもので、仏教の代表的な考え方の一つです。

 十二縁起にも様々な解釈がありますが、基本的な概念は次のようなものに
なります。

(1)無明(むみょう):無知、真実・真理を知らぬこと。
(2))行(ぎょう):意識を生じる意思作用。
(3)識(しき):対象を区別して知る識別作用。
(4)名色(みょうしき):名称と形態。認識される対象世界。
(5)六処(ろくしょ):眼耳鼻舌身意の6つの感覚。
(6)触(そく):六処によって生じる接触。
(7)受(じゅ):触によって生じる感受作用。
(8)愛(あい):渇愛(かつあい)。愛着。
(9)取(しゅ):執着(しゅうじゃく)。
(10)有(う):生存。輪廻再生すること。
(11)生(しょう):生まれること。
(12)老死(ろうし):老い死にゆくこと。

順観の場合は、
「無明」によって「行」が生じる。
「行」によって「識」が生じる。
「識」によって「名色」が生じる。 
 ――――――――――
「生」によって「老死」が生じる。
と生じる様を順に観ていきます。

逆観の場合は、
「無明」が消滅すれば「行」が消滅する。
「行」が消滅すれば「識」が消滅する。
「識」が消滅すれば「名色」が消滅する。
――――――――――
「生」が消滅すれば「老死」が消滅する。
と滅する様を順に観ていきます。

これによって、苦の根本原因を消滅し、生死を離れることとなります。

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法 10

2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  3.ソリューショントーク(解決に関する会話)
    仏性とソリューション

仏性と煩悩
 このように根本原因から対処する仏教の手法は、大乗仏教から密教へと革新されるなかで、大きく変容します。
 密教では「煩悩即菩提」の精神に基づき、煩悩を滅すべき悪しきものとは見ないようになっていきます。

 「煩悩即菩提」は、「煩悩」と「菩提」という二元論的発想を離れ、煩悩と菩提を超越した境地(智慧)において成立します。衆生の立場からすれば「煩悩」と「菩提」は対立するものですが、覚りを得た仏の立場から見れば、煩悩を離れて菩提はなく、煩悩と菩提は不二 といえます。

 真言宗で常時読誦される経典に『理趣経』があります。『理趣経』は般若経典の一つであるとともに、『金剛頂経』十八会のうちの第六会に相当します。『理趣経』は、愛欲や性を肯定するなど、それまでの禁欲的な仏教からは一見かけ離れた内容を説き、古来よりその取り扱いに慎重が期されてきた経典です。

 『理趣経』のなかにある「百字の偈」は、「大欲得清浄 大安楽富饒 三界得自在 能作堅固利」 で終わります。大意は、「大欲、絶対の欲望は本来清浄であり、絶対の安楽にして豊かである。あらゆる世界において自在となり、堅個な利益をなすことができる」という意味になります。ここには煩悩を滅して安楽を得るのではなく、大欲でもって安楽を得、自在となることが明文されています。

 現実世界への対応としては、煩悩に気づき煩悩を利用して菩提へと至る方法が説かれています。怒りや欲という煩悩も、我執にとらわれていては苦になるだけですが、怒りや欲を活かして、利他の道に入るならば、怒りや欲も役に立ちます。つまり、問題の原因を悪として断じるのではなく、逆に活かして活用する道を選ぶのです。

 苦の根本原因を見つめる初期仏教においては、苦に満ちた衆生の立場から世界を説いています。そして苦の根本原因を滅することにより涅槃(覚りの世界)に往くという構図を描いていきます。

 一方、人に本来仏性があるとする大乗仏教(密教)では、仏の立場から世界を説きます。雲がかかれば月は見えなくなりますが、月そのものは常に清浄に輝いています。その清浄なるところを本質として世界を語るのです。

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法 9

第4章 技法編
2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  3.ソリューショントーク(解決に関する会話)

仏性とソリューション

 空海は、大乗仏教のなかで生まれた仏性(如来蔵)という思想を重視しています。人は本来心に仏(如来)となる性質を宿しているという思想は、初期仏教にはない大乗仏教の独創的な思想です。仏性の思想が発展すると一部の本覚思想 のように、修行不用論を唱える宗派も誕生するようになります。

 空海は本覚思想的なものを持ちながらも、修行を重視することで、絶妙のバランスを保っているように私は感じられます。

 ここでは、「人には必ず仏性がある」という仏教の思想と、「人には必ずリソースがある」とするSFA(ソリューション・フォーカアスト・アプローチ)の思想を比較してみます。


仏性と煩悩
 原因があって結果が生まれるという考え方は、世間一般的に広く受け入れられているでしょう。仏教においても、因果は基本的な概念として、さまざまなところに顔を出します。「善因楽果・悪因苦果」は道徳的な意味も含めて仏教徒の基本的な信仰となっています。

 ブッダの高弟シャーリプトラ が「縁起をみるものは法をみる。法をみるものは縁起をみる」と言ったように、ブッダの法の基本は縁起にあります。
 ブッダの苦を滅する論理の基本は、「これがあるときに、かれが生じる。これが滅するとき、かれが滅する。」という此縁性の論理です。

 これに基づき十二縁起では、苦の根本原因を無明とし、「無明の故に生老病死という苦が生じる」、「無明を滅するときに生老病死が生じず苦を滅する」という論理を打ち立てます。

 初期の仏教では、煩悩を明確にし、それを滅していくことが修行の中心となるのです。
 ブッダの教えを因果の観点から述べれば、根本的な原因を明らかにし、それを滅することにより、結果を改善する手法といえます。

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法 8

第4章 技法編
2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  3.ソリューショントーク(解決に関する会話)


ソリューショントークの例
 ソリューショントークでは、ソリューションに焦点を当てることが大切であり、
未来のイメージやゴール、すでにあるリソース、例外などを問いかけていきます。

しかし問いかける内容は、目の前の人(クライアント)に寄りそっている必要が
あります。クライアントの想いを無視してソリューションを持ち出しても解決は
構築できません。

【会話例】 例外の発見。
クライアント:いつも幻覚に悩まされているんですよ。
カウンセラー:幻覚が出ていない時のことを教えていただけますか?

クライアント:朝、布団のなかでグズグズしていて、すぐに起きられないの。
カウンセラー:子供が入試の日は、なぜ早く起きられたのですか?

【会話例】 リソースの発見とコンプリメント(承認・称賛)。
クライアント:今日、本当はあんまりここに来たくなかったのですけどね。
カウンセラー:そんなお気持ちのなか、わざわざお越しいただいて
        ありがとうございます。

クライアント:彼のダメなところは、すぐに20はあげることができるよ。
カウンセラー:あなたのその鋭い観察力は、どこから来るのでしょう?

クライアント:私は愚かだ。自分のことを何も分かっていない。
カウンセラー:そのように自分のことを見つめる勇気を、あなたはどのようにして
        身につけたのですか?

【会話例】 ゴールの明確化、具体化。差異(ちがい)が分かると変化が起こる。
クライアント:どうしたらいいのか、私には分かりません。
カウンセラー:このセッションが終わったとき、今と何が違っていたら、
        ここに相談に来た意味があると思いますか?

クライアント:これからは心を入れ替えて、まじめに働きます。
カウンセラー:そのために、まず何をしますか?

クライアント:目標は、チームのコミュニケーションを良くすることです。
カウンセラー:チームのコミュニケーションが良くなると、今と何が変わりますか?

【会話例】 リソースの活用、応用。問題を否定せず、活かす方法を見つける。
クライアント:勉強しないで、ゲームばっかりしているんですよ。
カウンセラー:勉強に役立つゲームをやってみましょうか。

【会話例】 問題を問題としない。ダブルバインド的な会話。
クライアント:緊張してプレゼンテーションがうまくできないのです。
カウンセラー:では緊張したまま話すことにしましょう。まず緊張の練習をしてください。

【会話例】 他人の視点を入れると、関係を見直すことができる。
クライアント:もう無理だ。あきらめよう。
カウンセラー:あなたの尊敬する空海がここにいたら、彼は何と言うと思いますか?

【会話例】 何も変わらないとき、そこにリソースがある。
クライアント:ぜんぜん痩せないですよ。
カウンセラー:それ以上太らないで体重をキープできているのは、どうしてですか?

【会話例】 生きているということは、リソースにあふれていること。
クライアント:もうダメです。何もやる気がしません。
カウンセラー:そのような辛い状況のなかで、今までやってこられたのですね。
        その力はどこから来るのですか?

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法 7

2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  3.ソリューショントーク(解決に関する会話)


SFA(ソリューション・フォーカスト・アプローチ)

 SFAはMRI流ブリーフセラピーの思想や手法を受け継ぎながらも、ソリューションという新たな切り口からアプローチします。SFAの基本的なスタンスを現すものとして、4つの前提と3つのルールとしてまとめられたものがあります。

4つの前提には、社会構成主義的な思想が強く現れています。

4つの前提
1.変化は絶えず起こっており、そして必然である
2.小さな変化は、大きな変化を生み出す
3.「ソリューション」について知るほうが、問題と原因を把握するよりも有用である
4.クライアントは、彼らの問題解決のためのリソースを持っている。
 クライアントが、彼らの問題を解決するエキスパートである。

この前提の上で、3つのルールをアプローチの基本としています。

3つのルール
<ルール1>壊れていないなら、修復するな。
        (うまくいっているものを、変更するな。)
<ルール2>もし一度やってうまくいったなら、またそれをせよ。
<ルール3>もしうまくいっていないのであれば、違うことをせよ。

 ソリューショントークは、これらの前提やルールに基づく実践の会話です。
人のダメなところや出来ていない部分に注目するよりは、人が持つリソース(資源)や出来ている部分に焦点を当てる方が効果的であるというSFAの考え方は、セラピーの分野のみならず、さまざまなコミュニケーションの分野で注目されています。

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法  6

2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  3.ソリューショントーク(解決に関する会話)

例外の発見
 例外の発見は、ソリューショントークの中で使用される技法のひとつです。
例外とは、問題の中に有って既に解決していることを意味します。

 「子供とコミュニケーションが取れない」という問題を抱えている時に、「子供とコミュニケーションが取れる時もある」ことや「子供とコミュニケーションが取れる分野もある」ということを発見すれば、そこから解決への道を開くことができます。仕事で成果が挙がらないときには、少しでも成果が挙がった時、少しは成果が出ているところなどを探し、その上手くできているところを増やしていくようにします。

 人にはさまざまなリソースがあります。「勉強ができない」という問題を抱えている子供に、「人に優しくできる」という別のリソースを発見することは意味のあることです。
 しかし例外の発見では、問題の外にリソースを探すのではなく、問題(と思っていること)の内にリソースを発見します。「勉強できない」という問題に対して「少しは勉強のできるところ」や「少しはましな科目」などを探すことによって、解決している領域を見つけ、それを拡大させていきます。

 このように、問題があると考えているものの中に、問題ではない部分が存在することを発見していくのが「例外の発見」です。その発見は最初は些細なものかもしれませんが、その小さな発見を膨らませ育てていくことで、大きな変化へとつながっていくのです。

 心理面への影響では、出口が見えず途方にくれている人には一筋の光明となり、自信を無くし落ち込んでいる人には自尊心や自己肯定感を強めることとなります。

 例外の発見は、「問題を抱えた人」という見方から、「既に(少なくとも一部は)問題を解決している人」という見方へのリフレームでもあります。このリフレームにより、クライアントは、自分自身にゴール実現へのリソースがあり、自ら解決する力があることに気づくのです。

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法  5

2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  3.ソリューショントーク(解決に関する会話)

 ソリューショントークは、SFA(Solution Focused Approach)で使用されるコミュニケーション技法として、BFTC(Brief Family Therapy Center)で開発されました。BFTCは、インスー・キム・バーグやド・シェイザーを中心に1970年代に設立され、1980年代にはSFAが開発されています。

 ソリューショントークは症状や問題について会話するのではなく、ソリューション(解決)について会話する方法です。
 何らかの問題を抱えている場合、その問題について話し合い、その原因と解決策を考えるのが一般的なパターンです。しかしソリューショントークでは原因を追究をすることなく、解決された状態について会話をします。
 この手法の根底には、どんなに問題をかかえている人でも、必ず人には解決する力(リソース)があり、それを活かしていくことで、解決に導くことができるという思想があります。

 ソリューションの会話には、「すでにあるソリューションの会話」と「未来に起こるソリューションの会話」の2種類があり、その両者をうまく組み合わせて会話を進めていきます。
「すでにあるソリューションの会話」は、現時点ですでに解決していること、その人がうまくできていること、現在解決のために利用できることなどについて会話を進めます。

 例えば、「私は何をやってもダメなの」と落ち込んでいる人に「ほんの少しでもうまくできたことは、どんなことですか?」と、成功しているところを問いかけていきます。ダメな部分や失敗している理由を探すのではなく、成功している部分を見つけ出しそれを拡大させていくのです。
 「未来に起こるソリューションの会話」では、問題が解決した状態や、問題が解決したときの行動などについて会話を進めます。例えば、「すべての問題が解決しているとしたら、あなたはまず何をしますか?」「10年後をイメージして、あなたはどこで何をしているのか語ってください。」などと問いかけていきます。成功している状態を具体的にイメージすることで、それを実現する方向が見えてくるという現象が起こるのです。

 ソリューショントークでは、リソース(資源)の発見が重要な鍵となります。リソースとは、実現したいゴールを構築するために利用することのできる全ての資源(能力、性格、気質、思考、状態、体験、特徴、所有物、場所、関係、物語り その他)を意味します。ソリューショントークでは、人には必ずリソース(資源)があるという前提に基づき、リソースの発見と活用にアプローチします。そしてこのリソースは問題の近辺から発見されることが多くあります。

 例えば、どうしても積極的に人に関われないことを悩んでいる人が、「消極的である」という問題点から「厚かましくなく、控えめを好む人もいる」というリソースを見つければ、悩みは解決に向かいます。
 問題やその原因に対する問いかけは、欠けていることを発見するだけでリソースの発見にはつながらないことが多いのです。欠けていることの発見は、出来ないことを思い知らされるだけで、解決に結びつかないケースがよくあります。
 しかしソリューションについて語ることにより、その人が持つリソースが明確になり解決が近づいてきます。問題を滅するのではなく、それをリソースと見ることで解決の実現に活かす道を選ぶのです。

 このようにソリューショントークでは、問題の原因を明確にしその解決策を立案しようとする一般的な思考を離れ、ソリューションについて会話することでクライアントの望む世界を実現するという方法を採用します。
 
 これはひとつのパラダイムシフトであり、そしてとても効果的なコミュニケーションとなっています。

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法  4

第4章 技法編
2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  2.リフレーミング


 リフレーミングとは、ものの見方や思考の枠組み(フレーム)を変換させる手法です。リフレーミングは、MRIでも使用されているブリーフセラピーの中心的な技法になります。MRIの理論書である『変化の原理』では、リフレーミングについて次のように定義しています。

 「リフレームとは、ある具体的な状況に対する概念的および、あるいは感情的な構えや見方を変化させることであり、それは同じ状況下の「事実」の意味を規定する古い枠組みに変えて、それよりも良い、もしくは同等の他の枠組みを与えて全体の意味を変えてしまうことなのである。」

 リフレーミングは心理療法の世界だけでなく、さまざまな場面で現実に活用されています。アメリカの古典的名著『トム・ソーヤの冒険』では、ペンキ塗りの仕事をさせられていたトムが、「ペンキを塗る楽しい遊び」とリフレームすることで、友人にペンキ塗りをさせています。ペンキ塗りという事実は変わらなくても、仕事から遊びにリフレームされたことにより、友人はお金を払ってペンキ塗りに取り組むようになるのです。

 心理療法など問題や悩みを抱えている人に対するアプローチでは、ネガティブな思考や解決につながらない思考をリフレームします。例えば、「臆病でダメな私」と考え自己否定を重ねているクライアントが、「慎重に行動する私」とリフレームすれば、自己否定が少なくなり解決が近くなります。

 仏教は、元々心を中心に扱うものであり、リフレーミングの事例は多数伝えられています。人々の救済にリフレーミングが使われるのは当然ですが、少し変わったところでは、密教の手法や法具などもリフレーミングの例として挙げられるかもしれません。

 密教にはブッダが認めなかった様々な手法が存在します。例えば、護摩という手法があります。火を燃やし加持祈祷するようなことは、ブッダは認められませんでした。しかし密教では、煩悩を滅する象徴として火を取り入れています。火を燃やし火の神に祈るという儀礼を、煩悩を滅するという仏教思想にリフレームすることで、仏教の手法として火を使うことを可能にしているのです。
 このようなリフレーミングによって仏教思想の裏づけがあるからこそ、密教は仏教を名乗ることができるのです。
 

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法  3

第4章 技法編
2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  1.システムズ・アプローチ


 次に、システムズ・アプローチを仏教の観点から考えてみます。

 仏教(特に大乗仏教)は、世界を縁起や空、無碍瑜伽などの相互作用から把握します。さまざまな出来事を関係から生じる現象と見る仏教は、思想的にシステムズ・アプローチと共通するところがあります。
 一般的に使われる「よきご縁がありますように」というような言葉も、出来事の背後に出来事を生じさせる「何か」があることを想定しています。

 しかし縁起や空は、この世界の究極的な真理(法)ですから、仏教理論ではそれを観察し、理解し、受け入れることが基本となります。
 そして「よきご縁」を求める人々の声に対して日本仏教は、信仰や加持祈祷によって応えてきたように思われます。仏やお大師さまへの信仰、祈り、百度詣で、四国遍路などの宗教的行為は、仏の加護により「よきご縁」につながるものと考えられてきました。(ブッダは、このような救済的仏教を説かなかったかもしれませんが、日本仏教はこのような信仰を中心に発展してきたのです。)

 また密教では、加持祈祷によって災害・苦難の除去や幸福・健康を招くという手法がありますが、これも「よきご縁」を実現するものだと考えられます。
 これらの宗教的行為は、統計学的な効果測定等が行われていないため、通常心理学の土俵には登りません。しかし信仰する立場からすれば、効果の実証に意味があるのではなく、信仰しているという事実そのものが重要なのです。

 仏教では、「システムズ・アプローチ」のように、眼に見えるシステムや関係そのものに直接アプローチする手法は、あまり発達してこなかったように思われます。そうではなく、システムの背後にある「何か」(心、精神、スピリチュアリティ等)に働きかけ、それが結果的にシステムや関係を変容させるという手法が中心になると考えられます。
 コミュニケーション心理学におけるスピリチュアリティに関しては、次章(ベイトソンの精神論)で扱うこととします。

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法  2

第4章 技法編
2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から
  1.システムズ・アプローチ

<コラム>

家族内のルール(コンテキスト)の発見
 家族内にはその家族なりのルール(役割やパターンなど)がありますが、多くの場合そのルールは自覚されていません。

 例えば、子供に対して母親が厳しく指導すると、子供が反抗し、父親がなだめに入ると、夫婦で言い合いになる。夫婦が言い合いになると、子供が暴れ、子供が暴れると、母親が叱る。母親が叱ると子供が反抗し、父親がなだめに入る...(と繰り返される) などという風に、ある種の役割やパターンが存在するものなのです。

 しかし、問題のなかにいてその解決への道が見えない人には、それが分かりません。このような無形のルールは、お互いにどのようなコミュニケーションを取っているのかを見ることで、明確になってきます。
 コミュニケーションは、口に出した言語だけでなく、非言語が重要になります。 部屋のなかの位置、視線、態度、話しかける人、話かけられる人、距離を取ろうとする人など、言語化する以前にコミュニケーションのパターンは、ある程度構築されています。
 これらのルールのなかから、問題の発生に関与しているものを発見し、それを変更することが、システムズ・アプローチの基本となります。 

 先ほどの家族の例であれば、父親の介入をストップする、父親が厳しく指導し母親がなだめに入る、などいくつかのパターンの変更が可能です。
 パターンを変えること自体が直接問題解決に結びつく場合もありますし、パターンを見つけようとすることが、問題を発生させているルールに眼を向けさせ、自然とルールが変更されていく場合もあります。 

 ここでいうルールは、いわばパターン化しているコンテキストです。問題があるときに、人はその問題に眼を奪われがちですが、その背後にあるコンテキストを見ることで、問題に振り回されることが少なくなっていきます。

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第4章 技法編 ブリーフセラピーの技法 1

第4章 技法編
2.ブリーフセラピーの技法 - 密教の観点から


 ブリーフセラピーにはさまざまな流派があり、数多くの技法が開発されています。ここではブリーフセラピーの技法を密教の視点をふまえて考察します。

1.システムズ・アプローチ
 グレゴリー・ベイトソンは、心理療法の世界にサイバネティックス(通信制御工学理論)やシステムズ・アプローチを導入しました。生物の生存と進化を、精神活動を含めて考察したベイトソンは、統合失調症など心理療法の分野にも研究範囲を広げていきました。

 システムズ・アプローチは、ものごとを要素に分解して理解するのではなく、相互に作用しているシステムとして理解します。システムズ・アプローチでは、システムは要素に還元することはできないと考えます。システムは要素の相互作用によって成り立つため、分解した要素を単純に寄せ集めてもシステムは構築されません。したがってシステムズ・アプローチでは、要素間の動的な関係を踏まえてシステムを扱うこととなります。

 システムズ・アプローチの考え方は、ブリーフセラピー(家族療法)誕生の大きな力となっています。ブリーフセラピーの生みの親であるMRI(Mental Research Institute)では、家族療法を中心に研究を行ない、システムズ・アプローチを取り入れたブリーフセラピーを構築していきました。

 システムズ・アプローチによる心理療法では、問題は個人の中にあるのではなく、システムの中に存在すると考えます。例えば登校拒否の子供がいる場合に、「子供が登校拒否という問題を抱えている」とは考えないで、「家族というシステムのなかに登校拒否という現象がある」と考えます。

 従って解決のためには、家族というシステムに対してアプローチすることが必要となります。基本となる手法は、家族システムに存在する有形無形のルールを変更することです。家族内における父親の役割、母親の役割、子供の役割、それぞれの関係やコミュニケーションパターンを変化させます。役割やコミュニケーションパターンは、多くの場合無形のルールとして固定化されています。その固定化した状態での解決への努力が解決に向かっていない時、このような行動を「偽解決」と呼びます。

 MRIでは、「偽解決」を見つけ出し、それを変化させるためにシステム(ルール)の変更を試みます。ゲームに例えるならば、ゲームのルール内で勝ち方を見つけるのではなく、ゲームのルールそのものを変更するのです。

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